【10リスト】ヨルシカ、一生聴き続けられる名曲10はこれだ!

【10リスト】ヨルシカ、一生聴き続けられる名曲10はこれだ!
2017年、n-buna(G・Composer)とsuis(Vo)によって活動を開始したヨルシカ。『だから僕は音楽を辞めた』と『エルマ』、そして『盗作』と『創作』というように、アルバムを横断しながらその物語世界を深く描き出すコンセプチュアルな制作は、作品ごとにその寓話性、批評性を鋭くし、リスナーの知的好奇心を刺激し続けている。もちろんまずは純粋に、n-bunaの作り上げる歌詞やメロディ、suisの比類なき歌声の素晴らしさに耳を奪われるからこそなのだが、今回は、これまでヨルシカがリリースしてきた数々の作品の中から、その歌世界が見事に織り上げられた10曲をピックアップして紹介する。これからヨルシカに触れる人はこれをきっかけに、ぜひとも各アルバムにもじっくり触れてみてほしい。(杉浦美恵)


①言って。

1stミニアルバム『夏草が邪魔をする』(2017年)に収録された、今でも多くのリスナーに愛される1曲。疾走感のあるギターロックサウンドに、溢れ出るようなエモーションを体現するsuisの歌声が聴く者の心をとらえて離さない。《空が青いのってどうやって伝えればいいんだろうね》という切ない思いは、同アルバムの“雲と幽霊”では《君と座って バス停見上げた空が青いことしかわからずに》と呼応する。こうしたアンサーソング的、セルフオマージュ的な構造はその後もヨルシカの作品にしばしば見られるようになり、その構造により、ヨルシカの楽曲はより多重的にリスナーのイマジネーションを刺激していくこととなる。

②ただ君に晴れ

2ndミニアルバム『負け犬にアンコールはいらない』(2018年)に収録された楽曲で、2020年8月にはYouTubeでのMV再生回数が1億回を突破した。n-bunaの作り上げるポップソングは、リスナーそれぞれの記憶にもあるようなノスタルジックな景色を普遍的に、かつ文学的に描き出すものが多いが、この楽曲などはその最たるもの。そして、そこで描かれる風景をさらにエモーショナルに体現するsuisの歌声に惹きつけられる。《絶えず君のいこふ 記憶に夏野の石一つ》という歌詞は、正岡子規の句へのオマージュだが、俳句や和歌、古典文学作品などにも造詣が深いn-bunaならではのこうした粋なオマージュや引用は、初期からヨルシカを楽しむうえでのひとつのファクターとなっている。

③エルマ

1stフルアルバム『だから僕は音楽を辞めた』(2019年)に収録された楽曲。このアルバムは音楽を辞めることにした青年「エイミー」が、スウェーデンの街を旅しながら「エルマ」に向けて作った楽曲たちという設定のコンセプトアルバムとなっていて、エイミーという主人公の感情を、その本人のように、あるいはそれをエルマが体現するかのように歌うsuisのボーカルの豊かさに驚かされる作品でもあった。特にこの“エルマ”は、感情を抑えるように歌いながらも、静かに悲しみが滲み出してきて、その繊細な表現力には、エイミーが思い描いた景色の「空の青さ」まで、ありありと思い浮かべることができるような心地がした。

④だから僕は音楽を辞めた

主人公、エイミーのやるせなさが胸を刺すように伝わってくるエモーショナルな楽曲。ピアノの美しいアレンジと泣き出しそうなsuisの歌声とが長く頭の中に残る。このコンセプトアルバムを色濃く表現するタイトル曲であり、ここで綴られているのはエイミーの心情なのだが、n-buna自身の思考がそこに滲んでいるとも受け取れる。実際、リリース時のインタビューでは、この曲に関して「私的なことしか書いていない」(『ROCKIN’ON JAPAN』2019年5月号)とも言っていたのを憶えている。《音楽とか儲からないし 歌詞とか適当でもいいよ どうでもいいんだ》とアイロニカルで厭世的な言葉が並ぶ歌でありながら、《辞めた筈のピアノ、机を弾く癖が抜けない》という一節が妙に胸に刺さる。

⑤雨とカプチーノ

『だから僕は音楽を辞めた』の続編となるコンセプトアルバム、2ndフルアルバム『エルマ』(2019年)。今度はエルマが、エイミーから送られてきた手紙に触発されて同じ旅路を行くというストーリーが根底にある。今作では、より主人公そのものとして歌い切るsuisの歌声が物語への没入感を誘う。この“雨とカプチーノ”での一人称は「僕」なのだが、その「僕」も「エルマ」のそれであることが自然とわかるところに、細部にまで血が通うようなsuisの繊細な表現力を見る。初期からギターロックサウンドを好むn-bunaだが、洗練されたグルーヴ感を持つ楽曲も得意とするところで、“雨とカプチーノ”のギターとリズムの躍動感はとても心地好い。凡庸なシティポップに埋没しないアレンジの巧みさが、さらに歌の説得力を後押しする。

⑥ノーチラス

ジュール・ヴェルヌの『海底二万里』に出てくる潜水艦ノーチラス号を引用したタイトルは、深海からの浮上、眠りからの目覚めを意味しているというようなことを、以前n-bunaがTwitterでつぶやいていたと記憶する。アルバム『エルマ』のラストに収録された楽曲だが、この曲こそが『だから僕は音楽を辞めた』と『エルマ』とをつなぐ重要な曲である。suisの凛とした、それでいて儚さも感じさせる歌声と、どこか遠いところで見守るように響くギターが、物語の風景を鮮やかに描き出す。そしてこの楽曲はヨルシカというユニットが結成されてから最初に作った楽曲だという。エイミーとエルマの終わりと始まりの歌が、ヨルシカとしての産声でもあったということがとても興味深い。

⑦春ひさぎ

『だから僕は音楽を辞めた』と『エルマ』を作り終えたヨルシカは、次作でさらに驚きのコンセプトアルバムをリリース。2020年7月、『盗作』という刺激的なタイトルのアルバムで「音楽の盗作をする男」の物語を描いた。その『盗作』に収録された楽曲であり、“春ひさぎ”は売春の隠語である。それを「商売としての音楽」のメタファーとして用いることにより、アルバムのコンセプトを表す1曲として完成させ、不穏なピアノサウンドでスウィングジャズへのオマージュを展開するなど、まさにヨルシカの「多重」な構造を凝縮したような1曲である。suisの表現の幅はこの『盗作』でさらに広がり、もはや別人格が歌っているのではないかと思うほどで、“春ひさぎ”の乾いた中性的な歌声もとても魅力的だ。

⑧盗作

ヨルシカのポップミュージックの本質が現れた楽曲であり、音楽を盗んだ男の物語として書かれた曲だが、なぜかこの主人公の「正しさ」を信じたくなる。n-bunaの書く歌詞が、自身の「作品の価値は他者からの評価に依存しない」という揺るぎない信念に貫かれているからだろうか。そしてsuisの歌唱がその哲学に抜群の説得力を与えている。《まだ足りない。もっと知りたい。/この身体を溶かすくらい美しい夜を知りたい。》と歌う切実な声は、そのままヨルシカがポップミュージックに向き合い続ける動機なのではないかとも思う。もはやこの世に純粋に新しい音楽は生まれ得ない、だからこそすべては「盗作」であるという認識に基づきながら、そこを否定しないn-bunaの音楽はむしろ純粋なものだと思う。

⑨春泥棒

『盗作』の衝撃が冷めやらぬまま、2021年1月にEP『創作』がリリースされ、“春泥棒”もそこに収録された。2020年3月から大成建設のCM曲として流れていたこともあり、早くから話題になっていた曲でもある。命を桜に喩え、時間を風になぞらえる。時間は命を奪っていくもの。だから花びらを散らす風は“春泥棒”。n-bunaのそのイマジネーションの美しさと切なさに、ただただ圧倒された。これまで作品ごとに歌声の幅広さで驚かせてきたsuisのボーカルも、作品のコンセプトや物語性を表現するということとは別軸でただ純粋に素晴らしく、ここでは何の説明も深掘りも必要としない。ヨルシカのひとつの到達点とも言えるポップミュージックの美しさがここにある。

⑩風を食む

こちらも『創作』に収録された曲であり、そもそもはTBS系『NEWS23』のエンディングテーマとして書かれた楽曲である。「消費」し、「消費」される日常に疲れた現代人を、1日の終わりにやさしく包むようにといったコンセプトで作られた楽曲は、まさに穏やかに心を癒すものだった。人とのわかりあえなさを肯定も否定もせずそのまま受け止めながら、社会の中にいる自分と向き合うような、ヨルシカならではのタイアップ曲である。『創作』という作品に入ることによって、“春泥棒”とともに「春」の心象風景を描くテーマ性も浮き彫りになり、儚くも美しい日常を実感させる名曲として完成した。

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