デッド・バイ・サンライズ@SHIBUYA-AX

なんせこの、チェスター・ベニントン率いるデッド・バイ・サンライズは、世界初ライブ=サマーソニック09でのアクトからして千葉マリンスタジアム超満員のオーディエンスを相手にしていたし(あの時はヘッドライナー=リンキン・パークのアンコールでのサプライズ的な登場だったが)、その時点ですでに、自らがフロントマンを務めるリンキンのハイブリッド&ヘヴィの極みのようなサウンドとはまったく異質の、ラフでハード・エッジなロックの強度を存分にアピールし倒していた。そして今日、あの時の20分の1とか30分の1とかの規模の会場でその雄姿を目の当たりにしてしまうなんて!(しかも昨日の追加公演会場=リキッドルーム恵比寿はさらに小さいハコな上に当日券まで出たなんて!)……と、すごいライブになるであろうことは観る前から誰もが容易に想像がついた。が。

もう、犯罪的に贅沢な音楽体験。1曲目“ファイアー”から容赦なくオーディエンスの全身を貫く巨大なスケールのロック・サウンドにしても、空を割るような勢いで高らかに突き抜けるチェスターの高音スクリームも、あのスタジアム級のロックがそのまま……いやさらにタフになって鳴り響いている。曲の最初の1音が鳴った瞬間に身体の細胞の最後の1つ1つに至るまで委ねてしまいたくなる、ハード・ロック的強度とダイナミズム! しかも、パワー・コードの配置から各パートの音の鳴りに至るまで、世界4500万枚以上のセールスを誇るリンキンのフロントマンのプロジェクトならではのクオリティで貫かれている。もともとアルバム1枚分しか曲がない上に、両サイドのギタリスト=ライアン&アミアがギター交換のタイミングを逸するほど次々と楽曲を畳み掛けるもんだから、19時定刻に始まったステージはアンコール2曲含めても20時前には終演したのだが、それでもこの6人モンスター感を堪能するには十分すぎた。

ボタンをきっちり止めた長袖シャツの上にフードつきジャケットを羽織りサングラスをかけたチェスターの妙にファッショナブルな服装は、リンキンでのラフな佇まいとは対照的だったし、彼を出迎える観客の怒濤の歓声にも一抹の驚きが混じってもいた。が、チェスターがフロアに向かって長い腕を掲げた瞬間、そんなものはあっさり吹っ飛んだ。そして、曲が進むごとに高揚するキッズと競い合うように、他ならぬチェスター本人が全身全霊を傾けてヒート・アップし、上着を脱ぎ袖をまくり、最後にはタトゥーで埋め尽くされた上半身を露にして絶唱しまくっていた。アンコールの最後、ミスフィッツのカバー“20アイズ”で死に物狂いで踊りまくるチェスターの姿など、さながらザ・クロマニヨンズの甲本ヒロトのようだった。

去年サマーソニックで初めて彼らのアクトを観た時、そしてアルバム『アウト・オブ・アッシュズ』を初めて聴いた時には、“クロール・バック・イン”“インサイド・オブ・ミー”といったポジティヴでパワフルなロックンロール感が印象的だったし、ロックを重力崩壊させるようなリンキンのヘヴィ・ロックとは対照的にも思えた。が、“トゥー・レイト”“レット・ダウン”“ウォーキング・イン・サークルズ”“イン・ザ・ダークネス”と地の底を這い回るようなダークなスロウ・ナンバー群で固めたこの日の中盤の流れは、やはり世界最高レベルにシリアスなロック・アーティストとしてのチェスターの業を証明するような緊迫感に満ちていた……とはいえ。曲間で「アイ・ラブ・オール・ユー・ガイズ!」と手を振ったり、アンコールが終わった途端にステージから降りて最前列のファンと片っ端から握手しまくるチェスターの姿は、33歳の気さくないちミュージシャンそのものだった。何なんだこの人は。(高橋智樹)
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