扉を開ける瞬間が目の当たりに

デヴィッド・ボウイ『ウィドゥス・オブ・ア・サークル~円軌道の幅~』
発売中
ALBUM
デヴィッド・ボウイ ウィドゥス・オブ・ア・サークル~円軌道の幅~

ハイ・クオリティのアーカイブ作品をリリースし続けるデヴィッド・ボウイ・プロジェクト、今回もまた刺激的だ。

ドレス姿のボウイが妖艶に写るジャケットでも知られるアルバム『世界を売った男』は、グラム期前夜の重要作であり、そのニュー・ミックス版が昨年11月にオリジナル・アルバム・タイトル『メトロボリスト(Metrobolist)』(フリッツ・ラング監督のサイレント時代のディストピア映画『メトロポリス(Metropolis)』〈27年〉にインスパイアされたもの)としてリリースされ話題となったが、それとペアで聴かれるべき2枚組がこの『ウィドゥス・オブ・ア・サークル〜円軌道の幅〜』だ。

アルバム・タイトルは『世界を売った男』の冒頭を飾るドラマチックなナンバーで、この時代を象徴するにふさわしい。この時期のボウイといえば“スペイス・オディティ”で待望のシングル・ヒットを飛ばしはしたものの、自身の音楽性の追求のために演劇、パントマイム、舞踏など多様なジャンルへの挑戦も行い、結果としてそれはジギー・スターダストという虚構の異性体へと至っている。その進行形の姿をリアルに感じさせるのがこのレア音源や別ミックスなどでまとめられた作品である。

ディスク1は、人気DJジョン・ピールの番組『The Sunday Show』用に70年2月に録音/放送された音源で、マーク・ボランのティラノザウルス・レックスに入れ込んでいたピールだけにボウイもリラックスしてプレイしている。

基本的にスタジオ・ライブで、アコースティックで始まり、中盤からトニー・ヴィスコンティらと組んでいたグループ、ハイプがバックに付くが、特筆すべきは、収録の3日前に出会ったミック・ロンソンが入っている点で、しかもその1曲目は未発表だった“円軌道の幅”というのは出来すぎた話。しかもまだ『世界を売った男』のレコーディング前で、曲はこれしか出来ていなかったという(3月に結婚するアンジーといちゃいちゃしてばかりだった by ヴィスコンティ)。いずれにしてもこのエッジの鋭いギタリストの登場によりサイケ・フォーク・サウンドは一気にカラフルさを増し、ボウイもそこに感応していくわけで、その瞬間のドキュメンタリーだ。

ディスク2は、まずリンゼイ・ケンプのもとでパントマイムを学んでいたころにスコットランド・テレビで放送された貴重なもので始まり、3枚のシングルのオルタナ・ミックスなどが並ぶが、ここではマーク・ボランも参加の“プリティエスト・スター”、“ロンドン・バイ・タ・タ”が聴き物。グラム・ロック時代への導火線に火がつけられるかのようでもあり、そういう意味では、いち早くテスト・プレス盤を手に入れ衝撃を受けてカバーしたヴェルヴェット・アンダーグラウンドの“僕は待ち人(I'm Waiting for the Man)”の非常に激しいバージョンもまた完全に次の時代を視界に収めたスリリングな演奏となっている。

この時代ならではの貴重な写真やシングル盤等の資料が満載の美しいブックレットも素晴らしく、さすがのプロダクションだ。(大鷹俊一)



ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』7月号に掲載中です。
ご購入は、お近くの書店または以下のリンク先より。

デヴィッド・ボウイ ウィドゥス・オブ・ア・サークル~円軌道の幅~ - 『rockin'on』2021年7月号『rockin'on』2021年7月号

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